東京高等裁判所 昭和26年(う)2770号 判決
被告人 ○藤○一○
弁護人の控訴理由は、末尾に添付する控訴趣意書と題する書面に記載するとおりである。
ところで、少年法第四二条において、検察官は少年の被疑事件について捜査を遂げた結果、犯罪の嫌疑があるものと思料するときは、家庭裁判所から送致を受けた事件の場合の外は、すべてこれを家庭裁判所に送致しなければならない旨を規定している所から看て、少年に対する公訴の提起は家庭裁判所からの事件送致を前提の要件とするものといわなくてはならない。従つて、この要件を具備しない公訴の提起はおのずから不適法とするの外はない。しかし、公訴の提起が適法かどうかは裁判所の職権調査事項に属するから、裁判所はこの点に関する調査を訴訟の如何なる段階においてでも為し得るのであつて、これを必ず第一回公判廷までにしなければならないというわけのものではない。さて、被告人は本件公訴提起の当時少年であり、そうして本件公訴提起が家庭裁判所から刑事処分を相当と認めるの故を以て検察官に送致された後に為されたものであることは記録に編綴する事件送致決定書と本件起訴状とを対比してみれば、おのずから明らかであるから本件公訴提起の手続には右に云うような不適法の廉はないのであつて、右の事件送致決定書が所論のごとく原審の公判終結後検察官から原審に提出され従つて原審がこのときに到つて初めて本件公訴提起手続の適法性を知ることができたとしても、それまでに為された公判手続を以て無効とすべき根拠はとうていあり得ない。所論は畢竟独自の見解たるに過ぎないのであつて、もとより採用に値しない。従つて、論旨第一点は理由がない。
次に、少年法第四一条は、司法警察員に対し、罰金以下の刑にあたる犯罪の嫌疑ありとする少年の被疑事件を家庭裁判所に送致すべき旨を命ずるに止まるのであつて、死刑、懲役又は禁錮にあたる罪の事件を家庭裁判所に送致する権能を否定したものではない。けだし、少年の事件は死刑、懲役又は禁錮にあたる罪のものと雖も、まず、家庭裁判所において調査をし、その調査の結果、罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認める故を以て家庭裁判所から検察官に送致されなければ、検察官において公訴の提起ができないのであるから、これを司法警察員が検察官を経由しないで、ただちに家庭裁判所の調査に付するために同裁判所に送致することは、むしろ、司法警察員として機宣を得た措置というべきであり、同法警察員のこの権能を否定すべき根拠はいずこにもあり得ない。従つて、被告人に対する本件が強盜事件であつて懲役にあたる罪のものであるにかかわらず、所論のごとく司法警察員が最初ただちにこれを家庭裁判所に送致したものであつたとしても、その送致措置を目して違法とすべき筋合ではない。しかし、仮りに百歩を譲り、たとえ右送致手続が違法なものであつたとしても、その違法の故を以て原判決を破棄すべき謂われは毛頭あり得ない。所論はとうてい採用に値せず、従つて論旨第二点は理由がない。
(註 本件は量刑不当により破棄自判)